碌山美術館 |
信州に遅い春がやってくる4月下旬に長野県を旅してきました。
まったくのぶらり旅で、行先も日程も決めずに出かけたのですが、訪ねてみたい場所が2~3箇所ほどありました。
ひとつは、水芭蕉やカタクリの花咲く群生地。
まあ、アマチュアカメラマンが、一度はカメラに収めてみたいと安直に考えそうな場所です(~_~;)
満足な写真も撮れないくせに、それはそれで取りあえずは目的を果たしてきました。
碌山美術館 |
これはじっくり堪能してきましたよ。
雄大な景色を眺めながらの露店風呂、格別でした(*^。^*)
そしてもうひとつ、ゆっくりと巡ってみたかったのが美術館。
信州の美術館めぐりです。
ひとくちに信州と云ってもその範囲は広く、全域を巡ることは出来ません。
しかし、どうしても外せない美術館がふたつありました。
そこで今日は、そのふたつの美術館を紹介させていただくことにします。
荻原守衛 「女」 |
あくまでも私の個人的好みによる美術館紹介ですので、そこのところはご容赦ください。
信州には規模の大小の差はありますが、東京に次いで多くの美術館があります。
都会の大きな美術館とは一味違った佇まいを見せてくれる、信州のこじんまりとした美術館。
それぞれ志向は違うものの、どの美術館も趣きがあり素晴らしい作品を所蔵しています。
それらの多くは個人及び法人の美術館で、観光目的といった不可思議な美術館も存在しますが、それはそれでも良いと思います。
釣られて入っても、何かを感じれば良いことですし・・・。
碌山美術館 |
さて、では最初に北アルプスの麓、安曇野にある「碌山美術館」から紹介します。
「碌山美術館」は、彫刻家 荻原守衛(おぎわらもりえ1879~1910)の作品と資料、また守衛と交流が深かった彫刻家や画家の作品を所蔵展示している美術館です。
「碌山」とは、守衛の号であり、安曇野が守衛の出身地であったことから「碌山美術館」は、この地に昭和33年に建てられました。
私が碌山の彫刻と初めて出会ったのは学生時代、愛知県の美術館でアルバイトをしていた頃です。
荻原守衛 |
しかし、毎日観ているうちに、なんだか少し気になり始めたのです。
虚空を見上げる女性の希望と絶望が入り混じった奇妙ともいえる表情、肉体のねじれたポーズに、なんの意味があるのだろう???
「女」と題された彫刻のモデルが、作者である荻原守衛の叶わぬ恋心を激しく搔き立てた女性であると知り、興味を持ち始めた私は、守衛の人生を追いかけるべく「碌山美術館」まで行き着いたのでした。
その頃、若くて多感だった私は、守衛の相馬黒光への叶わぬ想いに過剰なほどの思い入れがあり、30才という若さでこの世を去ったその人物の人生を追わずには、いられなかったのです。
彼の言葉に「 LOVE IS ART, STRUGGLE IS BEAUTY-愛は芸術なり 相剋は美なり-」とあります。
苦しい恋心さえ、芸術の糧にして生きた荻原守衛の人生は、今でも私の心を熱く震わせます。
信濃デッサン館 |
古びた教会風のその建物は、何度訪れても静かに迎え入れてくれます。
庭のベンチに腰掛け、満開の桜を眺めながら、日本の近代彫刻にその名を残し、苦しい恋に身を焦がしたひとりの彫刻家を偲ぶ時間は、ゆっくりと流れていきました。
今回、守衛と黒光、二人の関係については、書きませんが興味のある方は自分で調べてください<(_ _)>
そして、もうひとつ紹介したい美術館があります。
関根正二 |
それは「信濃デッサン館」と少し離れた場所に併設された「無言館」です。
まずは「信濃デッサン館」から。
「信濃デッサン館」は、「信州の鎌倉」とも呼ばれる上田市塩田平に昭和54年、窪島誠一郎さんが私財を投じられて建てられた個人美術館です。
デッサン館といっても、デッサンだけが展示されている訳ではありません。
この美術館の主たるテーマは「夭折の画家」です。
優れた才能を持ちながら、 志半ばで病により、この世を去っていった薄命の画家たち。
その作品やデッサン、日記や書簡などが展示された館内は穏やかな空気に包み込まれていますが、情熱あふれる作品は、それに反して激しく訴えかけてきます。
無言館 |
おもな収蔵品は、残された作品が数点しか現存しない村山槐多の油絵や日記。
また、若くしてその才能を認められながら、わずか20才でこの世を去った関根正二のデッサンなどで、どれも心に響くものばかりです。
画家たちの青春の苦悩、若いがゆえの暴走、病の恐怖と向き合って生きた短い生涯に心打たれます。
これは、私の個人的な思考なのですが、私はデッサンというものに非常に興味があります。
おかしなことかもしれませんが、完成された作品よりデッサンの方に魅力を感じることが多々あります。
無言館 |
デッサンというものが世に出まわる必要はない存在だとしても、デッサンを観ることによって作者が描きたかった根本を垣間見られるような気がするのです。
非常に悪趣味かもしれませんが、作家の未発表の草稿を覗き見するようなワクワク感があります。
ある意味、ヘンタイですね(-_-;)
傷ついたパレットの鎮魂碑 |
またまた、言いたい放題なことを言ってしまいましたが、そういった意味においても数々のデッサンが観られる「信濃デッサン館」は私のようなヘンタイ系の方にお勧めの美術館です。
そして「無言館」
こちらも、「信濃デッサン館」同様、窪島誠一郎さんが画家野見山暁治さんととも戦没画学生の作品をご遺族の方々を訪ね歩き、収集された個人美術館で平成9年に開館しました。
戦争という時代の波に飲み込まれ、報われぬまま戦死された画学生たちの鎮魂の美術館です。
無言館の前庭にあるパレットのオブジェ |
困難な時代に画家を志し、開花することもなく散っていった命。
名を成すことを夢見ていたであろう若者たちの無念さがひしひしと伝わってきます。
残された作品は、どれも生き生きとした力がみなぎり、豊かな才能を見出すことが出来ます。
それゆえに、いっそう切なさがつのります。
展示された戦地からの手紙には、不平不満の言葉もなく(もちろん検閲されたでしょうから)家族を思いやる言葉が綴られていて、思わず涙があふれのを止めることができません。
鑑賞されている方々は、皆同様に手を合わせるスタイルになってしまうのです。
作品を鑑賞することはもちろんですが、戦争という悲惨な歴史を忘れないためにも、ぜひ訪れて頂きたい美術館です。
以上が、私が皆さんに最もご案内したかった美術館です。
このほかにも数々の美術館を巡り歩きましたが、やっぱり大好きな美術館は変わらないようです。
紹介した美術館は、どこも初めて訪れた美術館ではありませんが、何度訪ねても新鮮な感動を私にくれました。
皆さんも機会があれば、いえ、機会を作ってでも、ぜひに行ってみて欲しいと思います。
では、今日はこの辺で<(_ _)>
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